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YouTuberの出現からみる動画の変遷に関する分析 -YouTubeと生放送を参照して-

【研究ノート】

YouTuberの出現からみる動画の変遷に関する分析

YouTubeと生放送を参照して-

千葉商科大学大学院

政策情報学研究科

橋本卓

 

はじめに

 今回、いわゆるYouTuberについて考察していきたい。YouTuberと自称する人はたくさんおり、実験系やゲーム実況、競馬予想など、その守備範囲は無限大といってもよい。現在、YouTuberの認知度はかなりの勢いで広がっている。しかし、この守備範囲は、最初から存在していたわけではない。おそらく、“有名YouTuber” のHIKAKINは、ボイスパーカッションを初期の方で行っており、最初から広範囲な守備範囲を持っていたわけではない。もっと広い範囲で見てみると、YouTube自体は2005年5月に立ち上がったが、YouTuberが注目され始めたのは、ごく最近のことである。そのYouTuberが注目された理由の一つに、“面白さ”という抽象的かつ情緒的な評価基準が存在していると考えられる。

 

  1. 本研究の目的

 まず、本研究はYouTubeと生放送という2つの動画形態をもって分析を行う。YouTubeとは、インターネット上で動画を無料投稿・視聴できるシステムである。生放送とは、リアルタイムの動画を発信(以下、配信)し、リアルタイムで受信(以下、視聴)できることを指す。しかし、生放送自体はTVでも行われてきたことである。しかし、今回は、インターネット上で動画を無料、または有料で、生放送するものを指し、TVの生放送を区別するため、PC生放送とする。また、その具体例については後述するが、リアルタイムというのが重要な意味合いとなる。そういった情報の発受信環境・関係の変化が、YouTuberという存在を生み、社会へ影響をもたらしている。社会へ影響をもたらした理由の一つとして、様々な要因が考えられる。

 その要因として想定されるものとして、①発受信環境の変化、その環境の変化にともなう②発受信者関係の変化を分析していくことを目的とする。また、本研究ノートは、研究論文として著したものではないため、先行研究等は用いず、一般論に近い形で分析を試みるものとする。

 

  1. 生放送の変遷

2-1.生放送配信サイトの変遷

 2007年12月25日、株式会社ドワンゴが、ニコニコ生放送(以下、ニコ生)を設立した。誰しもが、登録をすればPC生放送を行え、その放送に対し、視聴者がコメントをうつことができるようになった。従来、TVの放送を視聴した後に交わされていた会話が、リアルタイムで行われるようになっただけではなく、配信元に批評を発信できるようになったのだ。放送されている動画を一方的に視聴するだけであった視聴者が、配信者の動画を受信した後、コメントという形で情報を発信するという形が成立した。(図1参照)配信者と視聴者を両者が両者を兼ねるという形態が成立したのである。また、民放等では、芸能人等の選ばれた人のみが出演し、プロが用意した台本を遂行することもあった動画配信から、素人が配信するという変化も生み出した。素人が行う配信につき、配信者同士での闘争も起き、時には警察沙汰となることもあった。だが、その予測不可能な展開を楽しむ視聴者は多く、挑発的なコメントを発信することで、事態の悪化を助長する視聴者の存在も確認された。

図1 生放送の出現による視聴者と配信者の情報発受信の変遷

 

2010年2月3日、モイ株式会社がTwitCasting(以下、CAS)の運営を開始した。ニコ生が、パソコンユーザー向けであったのに対し、CASはスマートフォンからの視聴が可能であり、若年層のユーザーを獲得し始めた。また、ニコ生は匿名性が高かったが、CASはTwitterのアカウントを使ってログイン(現在は、独自のアカウント等も作成できる)する方法がとられ、その匿名性は排除されたが、秩序が保たれると同時に、多くのユーザーをもっていたTwitterとの連携は、CASユーザーの拡大に一役を買うこととなる。ニコ生に対し、匿名性が低いことから、お気に入りの配信者に名前を記憶してもらうことが容易となり、親近感を抱く視聴者が多くなった。また、ニコ生が有料会員にならないと、閲覧に一定の制限がかけられるのに対し、CASは広告収入と有料商品の販売で運営されており、ほぼ無料で利用できることも功を奏した。ニコ生では、配信者と直接会話するために、Skypeの利用が必要であり、配信を見ながらSkypeを利用するためには、パソコンでの使用しかなく、パソコンを持たない層の支持は得にくかった。しかし、CASは、視聴用のアプリとは別に、配信用のアプリをダウンロードすることで、コラボ配信という機能を使用でき、配信を見ながら配信者とのリアルタイムでの通話が可能である。また、コラボ配信を用いることで、自分のアカウントを宣伝する機能があり、配信者として大成を目指すユーザーに利するところとなった。このため、ニコ生での配信者はCASの視聴者規模の拡大を目の当たりにし、ニコ生からの転向が相次いだ。

 2015年、株式会社jig.jpがふわっちの運営を開始した。今まで、配信者が商品を製造し、視聴者に販売、または、視聴者による寄付のような形で金品を受け取ることで、配信者が収入を手に入れていた。しかし、ふわっちは、合計視聴者数のランキングに応じてAmazonギフト券を受け取れるという形を実施した。この形をとったことにより、視聴者の任意による出費は小さくなると同時に、配信者の収入源の拡大をさせた。このシステムにより、CASの配信者はふわっちに転向し始めた。CASが、視聴者へメリットを拡大させたのに対し、ふわっちは配信者のメリットを拡大させた。

 

2-2.配信者の変遷

 ニコ生の母体であるニコニコ動画(以下、ニコ動)は、素人が協力して動画や静止画の作成を行うことが趣旨の一つにあり、配信者もその系統を組むものが多かった。いわゆる、オタクである。ニコ生で人気配信者として、また、悪名高き配信者として、ニコ生四大癌[1]がいる。ニコ生四大癌の中でも、石川典行[2]は肥満体系で、コレコレ[3]は体毛が濃いという見た目をしている。お世辞にも、美男とは言えないところがある。配信の内容としても、他人の配信を荒したり[4]、差別的な発言を行うなど、不快にさせる可能性を大いに含む配信を繰り返すことで、視聴者を獲得していった。しかし、CASの運営開始にともない、状況が一変する。伊藤蓮[5]等が参加する廃人の会という読者モデル集団を筆頭とし、芸能人もどきの美男美女配信者が頭角を現し始める。配信者に批判的・挑発的コメントが氾濫していたニコ生から、匿名性が低くなったCASでは、配信者を賛美するコメントが氾濫する配信が増加する。いわゆる、アイドル配信である。

 ニコ生でも、石川典行が信長というアカウント名を使用していたころ、視聴者を“足軽”と呼び、荒らし行為を行っていた頃や鮫島が住所を特定するなど、警察沙汰になることが横行していた時代には、賛美のコメントが存在しており、その前後にも少なからず存在していた。しかし、その賛美には恐怖がバックボーンとして存在していた。だが、アイドル配信では、「かっこいい」や「かわいい」という外見に対する賛美発言が多く、内容よりも外見が重視され始めるが、ニコ生配信者の転向により、状況は一変する。アイドル配信者は、賛美コメントに応対することが多く、独自のコンテンツを提供するには乏しい配信が大半を占めていたのに対し、ニコ生の視聴者ごと転向したことにより、潤沢な内容の配信が提供され、ニコ生配信者が配信上位を独占し始める。石川典行やコレコレ等が上位を占め始めたわけであるが、ネットの王子様(笑)[6]やしんやっちょ[7]等のイケメン配信者も上位を争いあうという構図を形成し始める。しかし、ネットの王子様(笑)としんやっちょは、人気ではなかったが、ニコ生の配信経験を持つ。

 

2-3.YouTuberの台頭

 生放送が人気を博す中、録画のYouTubeもYouTuberといわれる人々の台頭を進める。初代YouTuber であるMEGWIN[8]が2006年に登録し、動画の投稿を開始した。現在、チャンネル登録者数2位のHIKAKIN(約370万人)[9]が2011年、はじめしゃちょー(約460万人)[10]が2012年と続く。彼らは、体を張った動画や実験、ゲームや商品等の紹介を行うなどの動画をアップロードしている。はじめしゃちょうは大学生で配信をはじめたが、昨今、学生YouTuberも増えている。2015年に登録したYURAME[11]は高校生である。彼は、実の姉妹のお風呂に潜入したりと、卑猥な配信を行っている。しかし、とあることからホームレスと食事をし、クリスマスが近かったこともあり、クリスマスプレゼントをあげるという人情にあつい動画もアップロードしている。[12]2014年に登録したジョー[13]も、路上で食費の寄付を求めるホームレスの近くで同じ行為を行い、そこで得た寄付をそのホームレスに寄付するという動画をアップロードしている。[14]同年に登録したラファエル[15]は、日本刀やボウガンなどで破壊行為を行う動画をアップロードしている。2016年に登録したヒカル[16]は、遊戯王などのカードを扱うショップの店長と、カードの売買等を通じてのセッションを撮影した動画をアップロードしている。HIKAKINがYouTuberを謳歌していた時代から、

 2016年に登録したヒカルまでの5年間に、YouTuberの多様化が進んだ。

 また、2014年にはコレコレ、2015年にはみずにゃん[17]といったニコ生(兼CAS・ふわっち)配信者が、YouTubeに進出している。


 

  1. YouTuberの考察範囲

 3-1.YouTuberの定義

 そもそも、YouTuberという言葉自体不明確である。YouTubeに動画を1本でもアップロードするとYouTuberなのであろうか。1本アップロードしても、広告収入がないのであれば、経済活動とはいえない。では、動画のアップロードによって経済活動を行っているものがYouTuberなのであろうか。その定義は大変難しく、“俗称”としてのYouTuberが広く使われている。実際、自分をYouTuberだと自称する学生たちの発言をきいてみると、編集技術はおろか、閲覧数も3桁行けば上等で、広告収入はスズメの涙ほどでしかない。YouTuberのマネジメントなどを行う「動画ビジネス業界初YouTuberプラットフォーマー」UUUM株式会社(以下、UUUM)は、3600以上のYouTuberチャンネルをマネジメントしている。1人で数チャンネルを保持していると考えても、かなりの人数になる。前述した、広告収入が極端に低いYouTuberなどは、事務所に所属していないケースが多く、その数をカウントするのはかなり難しい。収入の面だけでは、その定義は困難である。そもそも、広告収入を拒否している人もいる。経済活動の有無では、定義が難しい。

表1 チャンネル登録者数ランキング

順位

登録者数

チャンネル名

1位

4,666,549 

はじめしゃちょー

2位

3,712,156

HikakinTV

3位

2,645,871

木下ゆうか

4位

2,576,686

HikakinGames

5位

2,086,160

SeikinTV

6位

1,902,393

Fischer's

7位

1,899,314

Goose house

8位

1,883,488

MosoGourmet

9位

1,853,613

HIKAKIN

10位

1,682,151

はじめしゃちょー2

25位

1,124,557

Miniature Space

Top  YouTuberより橋本が作成

しかし、Top YouTubers[18]というサイトでは、YouTuberをランキング形式で紹介している。同サイトでは、チャンネル登録者を基準にランキングを形成している。では、チャンネル登録者数でYouTuberの定義を行うかというと、その基準となる数値が難しいというのが現状である。この登録者というのも、アカウントがたくさん作ることができるということを考慮すると、必ずしも信頼のおける数字とはいえない。前述したように、チャンネルをいくつも持つことが可能であり、複数のチャンネルを合算するのかという問題も生じる。前出のサイト(表1参照)を見てみると、1位のはじめしゃちょー[19]が唯一の460万越えであるが、10位のはじめしゃちょー2も160万越えである。はじめしゃちょーが2チャンネル、HIKAKIN[20]が3チャンネルとなっており、実質、7人しかベスト10位に入っていない。仮に、100万人を基準においた場合、25位の110万までであり、日本のYouTuberは、重複を抜くと22人しかいないことになる。これもまた、自称YouTuberの大半を切ってしまいかねず、採用しかねる。

 動画の種類を検討してみると、大きく2点があげられる。投稿者の出演の有無という点である。違法アップロードが横行する中、投稿者自身が、素顔を撮影するかどうかは別として、体の大半が写っているか否かがみられる。ゲーム実況などであると、ワイプで投稿者が写っている場合もあるが、すべてがそうであるとは限らない。視点が1人称型となったものも同様であり、投稿者が写っていないという点では、アニメや映画等の動画と共通する。しかし、投稿者が個人ではなく、グループである場合もあり、その場合、全員が写っているかの有無や代表者が写っているかの有無が問われる。

 経済活動、チャンネル登録者数、投稿者の出演の有無という3点で定義をしようと試みたが、簡単に定義できないほど、YouTuberという言葉が乱用されている現状があり、定義づけが本稿の主目的ではなく、定義づけを急ぎ、安易な形で終わらせることは、定義の脆弱性を孕むことになる。NEWSポストセブン[21]では、YouTubeで得た広告収入で生計を立てる人をYouTuberと定義するかのような記述があるが、その基準で判断するのは、第三者では難しいところがある。本稿では、YouTuberの定義を“自称”しているものをすべてYouTuberとする。非常に安直かつ不安定な定義であるが、主目的を達成するため、そのようにする。

 

3-2.YouTuberのカテゴリー

 YouTuberの定義を“YouTuberと自称するもの”と、安直に定義づけたわけであるが、分析対象とするYouTuberを絞りたい。UUUMの1社でさえ、3600以上のチャンネルを抱えており、そのすべてを考察するのは時間を要する。今回は、4つのカテゴリー分けを行った。チャンネル登録者数が非常に多く、YouTuberの火付け役となった“はじめしゃちょ―”と“HIKAKIN”を“古参YouTuber”(両者ともUUUM所属)。“ジョー[22]と“YURAME”[23]を“フリーYouTuber”。“ヒカル”[24]と“ラファエル”[25]を“新参YouTuber”(両者ともNext Stage[26]所属)。“みずにゃん”[27]と“コレコレ”[28]を“黒船YouTuber”とする。

まず、古参YouTuberであるが、UUUM所属というくくりでもある。UUUM[29]では、所属クリエイターをマルチクリエイター、ファッション&ビューティー、映像クリエイティブの3種に分類している。今回ピックアップした2名は、両者ともマルチクリエイターである。なぜ、マルチクリエイターの1種類しか選択しなかったのかは、後に述べる。次に、フリーYouTuberである。特定の集団に所属していないが、両者には共通点があり、他のYouTuberとは一線を画する部分があるため、選択をした。新参YouTuberであるが、大手UUUMではなく、新会社Next Stageを設立した。1月28日現在、31名のYouTuberが所属をする。ホームページ上の紹介人数では、UUUMの36名に匹敵するほどである。昨年11月26日に設立された会社であることから、会社組織としての“新参”とした。31名の所属YouTuberの中から、この2名を選出したのは、この2名の系統が全く違うことにあるが、詳細は後に述べる。最後に、黒船YouTuberであるが、この2名はニコ生からCASの生放送で、大手配信者と呼ばれる人々である。大手配信者とは、同時閲覧者数が3桁後半以上というものもいれば、4桁以上というものもいる。他にも同様の人物はいるが、この2名が活発にYouTuberとして活動しており、警察沙汰がない、または、少ないことから、他のYouTuberと近いと判断し、選出した。

 

 


 

4.YouTuber PCと生放送配信者の特性分析

4-1.YouTubeの優位性

 選出した8名のYouTuberの登録年をみておきたい。まず、HIKAKINが2011年であり、最も古い。次に、はじめしゃちょーの2012年が続く。そして、ジョーとラファエル、コレコレが2014年。みずにゃんとYURAMEが2015年。ヒカルが2016年となっている。登録年数は、最古参であるHIKAKINから最新参のヒカルまでは約5年であり、大差とは言い難い。ここで注目したのが、ヒカルである。2016年3月18日に登録したヒカルは、Next Stageのリーダー的存在になっている。実際、1月27日に投稿した動画は、1日で約90万回以上[30]も視聴されている。HIKAKINが同日に投稿した動画は、80万回[31]の視聴に収まっており、両者とも前後するものの、ヒカルの動画の人気がよくわかる。余談ではあるが、最古参の日本人YouTuberは、2006年に登録したMEGWINであるが、すでに配信技法は、他のYouTuberに踏襲されており、特筆する必要はないと判断し、選出から排除した。

今回選出したYouTuber の最古参であるHIKAKINは、2010年からニコ生で活動を行っていた。彼は、ボイスパーカッションという特技を持ち、本業のスーパー従業員をしながら配信活動を行っていた。PC生放送を出発地点として、YouTuber業界に進出したのは黒船YouTuberと同様である。特に、PC生放送の絶対的王者といわれるコレコレを慕っていた[32]ことでも知られている。脚注にあげた動画は、コレコレ本人がアップロードしたものになるが、動画に写っているのはHIKAKIN本人である。後に、HIKAKINはYouTuberを本業とし始めるが、はじめしゃちょーやYURAMEは、学生の傍らでYouTuberを行っている。特に、YURAMEは高校生であることからも、学生YouTuberは、他にも“水溜まりボンド”[33]や“禁断ボーイズ”[34]があげられる。禁断ボーイズについては、所属する学校に苦情の電話が殺到し、「退学かYouTuberか」[35]の選択を迫られ、最終的には、全員が自主退学を選択した。ジョーとラファエルの出自はわからないが、趣味または副業としてのYouTuberから、学生YouTuberの台頭が見られる。また、黒船YouTuberらは、前述したようなPC生放送で知名度を勝ち取っている。黒船YouTuberのようなYouTuberは、他にも多数いる。そのほとんどが、PC生放送で配信した内容を録画し、YouTubeに転載している。少数ではあるが、YouTuber同様、YouTube用に撮影し、投稿するものもいる。

彼らは、PC生放送配信自体で収入を得るのは難しく、それ自体で収入を得ている人はほとんどいない。ニコ生でのチャンネル契約による収入が候補としてあげられるが、その契約を勝ち取るのは難しい。勝ち取った配信者として、有名なのが“石川典行”[36]である。しかし、彼は配信中に暴力事件を起こし、チャンネルを取り上げられている。いわゆる「森ドン事件」[37]である。チャンネルという獲得の難しい方法とは対照的に、配信自体が収入の対象となるふわっちが出現をした。同サイトの出現により、配信で収入を得るという形を手に入れたが、YouTuberの道を歩むものが多い。収入を比較するのは難しいが、収入の獲得方法を比較することはできる。まず、ニコ生のチャンネル獲得は、突出して困難を要するのに対し、YouTubeやふわっちの入り口に制限はない。ニコ生でチャンネルを獲得できなくとも、収入を得ることはできる。ツイキャスも同様であるが、いわゆる“乞食”である。自分で商品を製造販売することで収入を得ている配信者は多く、販売せずに、ただ金品を受け取る配信者もいる。PC生放送は、YouTubeと違い、生放送は時間的拘束をともなう。録画してある動画は、時間に拘束されずにみることができるが、生放送中にコメントすることで行う交流に視聴の価値を感じる人々は、生放送中を欲するため、時間的拘束をともなってしまう。ゴールデンタイムといわれる22時に配信をしなければ、視聴者数を稼げないこともあり、配信者自体にも拘束がともなう。また、ふわっちの収入獲得条件は、他の配信者よりも多く視聴者を獲得することにある。YouTubeが、視聴者数に応じた収入なのに対し、ふわっちは競争を行い、高順位にいなければならない。YouTubeでは、視聴回数に応じた収入になり、1人が何回でも視聴できるのに対し、ふわっち等の生配信サイトでは、1端末で1視聴とカウントされ、同時視聴人数が評価基準となる。

この回数と人数という点、時間的拘束の有無の2点から、自由度が高く、競争が比較的少ないYouTubeが優位に立つ。この点からも、時間に拘束されがちな学生が参入しやすい点になる。また、生放送では、視聴者からリアルタイムにコメントが発信される。このコメントのすべてに対応する必要性はないが、コメントに対応しないと無視されていると感じられ、批判の対象になることもある。YouTubeでもコメントの記入はできるが、生放送ではないため、リアルタイムに対応することが不可能であり、対応をしなくても無視と判断される対象になりにくい。

 

 4-2.PC生放送による発受信者間の変遷

 前述したように、PC生放送はニコ生の攻撃的かつ従属関係の組織形態が構成されていたが、CASの出現により一新される。石川典行や鮫島等のように、視聴者を用いた他の配信者を攻撃する言動や行動は、配信者からも、視聴者からも搾取される。匿名性が無くなり、運営会社の敷いた規制の中での配信は、賛美と協調路線へ大きく舵を切った。伊藤蓮等のいわゆるイケメンが、配信者として人気者になり始め、見た目も一新された。その配信者の一新の土台には、視聴者の拡大が根本にあると考えらえる。視聴者がオタクという限定的な存在から、インターネットに疎い中高生や一般人にも拡大したことから、TVの視聴者と近い層へと移行した。そのため、TVに出演する芸能人と近い存在を求め、その需要に近い形で、伊藤蓮らが供給されたのではないだろうか。しかし、“見た目”というコンテンツは限界がある。実際に、TVでも、美男美女が活躍する番組だけが存在するわけではなく、ニュース番組やお笑い番組等も存在し、“見た目”とは違うコンテンツが提供されている。

 そこで、視聴者のパイが大きくなると同時に、ニコ生視聴者がCASへ転向したことが拍車をかけ、ニコ生配信者がCASへ進出を行った。これは決して、完全な転向ではない。ニコ生視聴者の中には、賛美コメントが多いCASへ嫌悪感を抱くものもおり、ニコ生配信者の中にも動揺の感情をもつものがいる。そういったことから、ニコ生とCASの両方を配信・視聴のフィールドとするものもいる。また、嫌悪感が強いものやニコ生へ愛着が強いものは、CASへの転向をせず、ニコ生に残留している。今まで、ニコ生一択であったPC生放送が、CASの出現により、二分化する。逆に、CASで配信を始めた配信者の中には、一部ではあるが、ニコ生への参入を行うものも現れ始めた。しかし、賛美コメントと視聴者の特定のもとで行われていた親近感になれていたCAS配信者は、ニコ生の風潮になれることができず、撤退を余儀なくされている。ふわっちの出現は、配信者の経済環境のみを変えた。特にCASのような視聴者のパイを増やすことはなかった。しかし、経済環境という点では、配信者の配信方針を大きく転換させる。

ニコ生配信者にニートなどの無職が多かったのに対し、CASでは読者モデルなどの本業をもつものが出現し、配信者の製造・販売や寄付などの収入構造が、本業の収入構造へ転換する。PC生放送により、名前を売ることで本業の収入につなげるという宣伝媒体としてのPC生放送へと利用方法が変わる。ニコ生では、視聴者の層が限られていたのに対し、CASでは視聴者のパイが大きくなったことから、他の配信者を引退に追い込む必要がなく、むしろ、協調した方が収入につながるという状況の変換が発生した。このことが、ニコ生の攻撃から、CASの協調への変換につながったのではないだろうかと考える。そもそも本業を持つものからすると、自分が引退をする可能性を作る必要はなく、趣味としてのPC生放送を楽しむという選択肢も生まれ、それは攻撃性を弱める。規制とは別のところで機能を発揮したのだ。しかし、ふわっちにより状況は再び変換を迎える。視聴者数によって収入が変化するということが、副収入を求めて転向した配信者の意欲を掻き立てた。CAS同様のパイはあるものの、そのパイをどれだけ“独占”できるかが課題となったのだ。CASの協調という外向的姿勢は、支視聴者の囲い込みという内向的姿勢へと変換を行う。他の配信者の視聴をされるということは、自分のランキングを下げる可能性があり、視聴者の囲い込みがかなり重視される。それは同時に、視聴者第一の配信へと方針を鋭利にさせた。CASでは、視聴者が配信者をたたえていたのに対し、視聴者が配信者をたたえることで、熱狂的な視聴者となってもらう必要性がでてきたのである。

ニコ生の攻撃・従属関係から、CASの協調・賛美関係に変更した。ふわっちになると、鎖国・お客様関係という変遷をもたらした。

 

 4-3. YouTuberPC生放送の特性

 YouTuberでは、古参YouTuberや新参YouTuberという組織化が進んでいく。前述したPC生放送では、CASとふわっちを融合した形態がYouTubeである。視聴者の数が多ければ多いほど、収入につながる。しかし、そこに他の配信者との競合は存在しておらず、配信者同士が協調し、宣伝し続けることが集客効果につながる。特に、組織化による結束力の向上は、相互に好影響をもたらす。宣伝効果はさることながら、イベントなどの実施も容易となる。また、問題発生時の対処の協力者をもっておくことは危機管理の上でも重要なことである。組織化はCASでも行われている。例えば、残念なつきGO[38]は、残念すけべぇ[39]や残念パピコ[40]といったメンバーを抱えている。メンバー内で配信を行ったりと、協調的な行動を行い、相互の宣伝を行っている。こういった自己組織化を行っているものの他に、フリーYouTuberのような単独で配信を行っているものもいる。単独の配信というところでは、黒船YouTuberと同様である。だが、PC生放送とYouTubeの組織化で大きく違うところは、PC生放送は下流層が組織化しているところである。YouTubeが人気YouTuberである上流層の組織化が進み、下流層が吸収されるという形であるが、PC生放送では、上流層の単独が主流である。また、CAS以降の協調性はYouTubeに適用できない範囲もある。UUUMに所属すれば容易であるが、Next Stageを設立したりと、別組織を設立することで実質的な対抗意識を生んだ。組織化はCASの流れをくむものの、対立意識はニコ生の流れを汲んでいる。原点回帰が行われているのである。PDR[41]さんは、他の配信者の配信内容を批判している。[42]この場合は、個人対組織(UUUM)のメンバーという構図ではあるが、攻撃意識が存在していることは否定できない。

 CASにおける批判とは、不倫等の不祥事の追及が多いが、配信内容に関する批判はニコ生に多いことであった。対決姿勢が個人から組織へと移行とした状態は、YouTuberは、ニコ生とCASのハーフである。また、ふわっち同様に、視聴者によって収入が左右されるYouTubeにおいて、人数ではなく、回数に左右されるでは、相手を攻撃する必要性はない。しかし、回数を増やすためには、視聴をしてもらうのが大前提となる。それは、PC生放送も例外ではないわけであるが、そのための話題作りが必要なのである。その方法としての協調による宣伝なのか、対立構造を構築することによる話題作りなのか。その点が大きく二分化したのがYouTubeなのである。

 

 

 

 

 

 

5.まとめ

 PC生放送において、配信・視聴方法の変化によって、配信者と視聴者の関係性が変化した。大きな変化としては、対外思考から対内思考へ変化し、閉鎖思考に変化した。それは、運営会社が与えた環境に順応する形へと変化したのである。配信者と視聴者は、相互に環境により影響を与えた。

図2 PC生放送による変遷

 

YouTuberの躍進があらわれたのも、そのPC生放送の変化によるものである。しかし、YouTuberは流れだけをくんだのではなく、一部では原点回帰を果たしながら、完全にどちらかに移行したわけではない。両者の流れを汲んだ形でYouTuberは成立している。動画中心のPC生放送から動画のYouTubeに人気は移行したものの、YouTuberの中にはPC生放送へ進出するものもいる。PC生放送では、雑談が中心になり、大半が宣伝活動の一環である。PC生放送はCASの生んだ環境が大きく反映されながら、TVの動画やニコ生の攻撃性が生き延びている。

図3 動画の変遷

 

上記の事から、①発受信環境の変化やその環境の変化にともなう②発受信者関係の変化を分析したが、先行研究を用いた研究が今後も必要である。

 

[1] ニコニコ大百科「ニコ生四大癌」http://dic.nicovideo.jp/a/%e3%83%8b%e3%82%b3%e7%94%9f%e5%9b%9b%e5%a4%a7%e7%99%8c 2017.1.28閲覧

[2] 石川典行のノリラジHPhttp://noriyukiradio.net/profile/index   2017.1.28閲覧

[3] コレコレ https://www.youtube.com/channel/UCgOfjIl0I_oG7VxIoaKaRsw/about  2017.1.28閲覧

[4] 荒らし:他の配信者の配信に妨害等を行い、円滑な放送を妨げようとすること

[5] 伊藤蓮 Twitter https://twitter.com/19957220  2017.1.28閲覧

[6]ネットの王子様(笑)  https://twitter.com/oujityama  2017.1.28閲覧

[7] しんやっちょ https://twitter.com/shinya_yuunari  2017.1.28閲覧

[8] MEGWIN https://www.youtube.com/user/megwin/about 2017.1.28閲覧

[9] HIKAKIN  https://www.youtube.com/user/HikakinTV/about 2017.1.28閲覧

[10] はじめしゃちょー https://www.youtube.com/user/0214mex/about 2017.1.28閲覧

[11] YURAME  https://www.youtube.com/channel/UCvVG6ZeYHjp1OdbERUiMneA/about  2017.1.28閲覧

[12]「ホームレスにクリスマスプレゼントをあげたら感動的な結末に」 https://www.youtube.com/watch?v=w-wcZnU6Vjc 

[13] ジョー https://www.youtube.com/user/joevlog7/about 2017.1.28閲覧

[14] 「ホームレスの人を飲みに誘ってガチの友達になりました」。https://www.youtube.com/watch?v=eCuZlswaUNI 

[15] ラファエル https://www.youtube.com/channel/UCI8U2EcQDPwiQmQMBOtjzKA/about  2017.1.28閲覧

[16] ヒカル https://www.youtube.com/channel/UCaminwG9MTO4sLYeC3s6udA/about  2017.1.28閲覧

[17]  みずにゃん https://www.youtube.com/channel/UCtOQj6_XsfQ_AAm6GGRYlYQ/about  2017.1.28閲覧

[18]Top YouTuber HP  http://youtubers.demouth.net/ 2017.1.28閲覧

[19] はじめしゃちょー https://www.youtube.com/user/0214mex/about 2017.1.28閲覧

[20] HIKAKIN  https://www.youtube.com/user/HikakinTV/about 2017.1.28閲覧

[21] NEWSポストセブン「動画職人になってYouTubeで稼ぐ 「動画バブル」が到来か」http://www.news-postseven.com/archives/20140306_244568.html 2014.03.06

[22] ジョー https://www.youtube.com/user/joevlog7/about 2017.1.28閲覧

[23] YURAME  https://www.youtube.com/channel/UCvVG6ZeYHjp1OdbERUiMneA/about  2017.1.28閲覧

[24] ヒカル https://www.youtube.com/channel/UCaminwG9MTO4sLYeC3s6udA/about  2017.1.28閲覧

[25] ラファエル https://www.youtube.com/channel/UCI8U2EcQDPwiQmQMBOtjzKA/about  2017.1.28閲覧

[26] Next Stage HP http://vaz.tokyo/creator/ 2017.1.28閲覧

[27] みずにゃん https://www.youtube.com/channel/UCtOQj6_XsfQ_AAm6GGRYlYQ/about  2017.1.28閲覧

[28] コレコレ https://www.youtube.com/channel/UCgOfjIl0I_oG7VxIoaKaRsw/about  2017.1.28閲覧

[29]UUUM株式会社HP  http://www.uuum.jp/creator  2017.1.28閲覧

[30] 「遊楽舎にジョージア540本差し入れしたら店長が予想外の反応だったwww」https://www.youtube.com/watch?v=lp4r2uA_wRQ 

「本当に当たるの?ジョージアの自販機でドラゴンボールのグッズをコンプするまで買ったら鬼畜確率すぎたw」https://www.youtube.com/watch?v=zYejyF3cKNk 

[31] 「iPhone7に本気でデコピン100発してブッ壊す!【Z’us-G】」https://www.youtube.com/watch?v=nQ9_A7x3ibE 

[32] ヒカキン「コレコレさんマジありがとう」https://www.youtube.com/watch?v=H9BCqaWuZNU 

[33] 水溜まりボンド https://www.youtube.com/channel/UCpOjLndjOqMoffA-fr8cbKA/about   2017.1.28閲覧

[34] 禁断ボーイズ https://www.youtube.com/channel/UCvtK7490fPF0TacbsvQ2H3g/about  2017.1.28閲覧

[35]メサイアが引退することになりました」https://www.youtube.com/watch?v=55BDliZt2lc

メサイア復活します!」https://www.youtube.com/watch?v=q7-e4YOoE94 

[36] 石川典行のノリラジHPhttp://noriyukiradio.net/profile/index   2017.1.28閲覧

[37] 【石川典行】激しい口論の末、よっさんに暴力を振るう【森ドン】https://www.youtube.com/watch?v=nf7DvqYbmBI 

[38] 残念なつきGO https://twitter.com/25natsuki25  2017.2.7閲覧

[39] 残念すけべぇ https://twitter.com/sukebee66  2017.2.7閲覧

[40] 残念パピコ https://twitter.com/senayu4  2017.2.7閲覧

[41] PDRさん https://www.youtube.com/user/PDRKabushikigaisha/about  

[42] 「カリスマブラザーズは本当に英語ペラペラなの? 」

https://www.youtube.com/watch?v=xUe5DLlcAAM 2017.2.7閲覧